安藤農園3部作原作


【第2部】
 隆雄はいつものように、自宅へ付いた。 昼間は静かなゴンダニシティーも、この時間になるとネオンの彩りに闇がかき消されることもしばしばである。隆雄はその艶やかさの裏腹に潜む、荒廃したこの街の農業事情に嫌気がさしてはいたが、ここが自分の心をいやす唯一のエリアであることも知っていた。
 今日の仕事も代わりばえしなかったが、なぜか疲労が溜まっているようだ。隆雄はすこし肩を落とし気味に玄関から家に入った。

 今日の隆雄の行動を一部始終監視している影が在ったことを、隆雄はまだ知らない…。 
 夕食は今朝のコーヒーチャーハンの残りで済ませようと、食器を洗わずにおいといたのは正解だった。こうすることにより、家事の労力を極力減らすことができるし、何よりも、まだ下水処理施設が完備されていないゴンダニシティーでは環境を破壊しない、より良い方法だと隆雄は感じていた。
 その時だった。唐突に玄関を叩く音がキッチンにまで響きわたってきた。こんな夜中に誰だろうと、隆雄は不安を感じずにはいられなかった。最近はここでもライススティーラーが出現している、安藤農園もそのターゲットからはずされているという保証は農協にもない。
 しかし、まさか玄関から堂々と入ってくる泥棒もいないだろうと気持ちを落ちつかせた。でも右手にはしっかりワルサーP38が握られていた。ルパン3世も使っていると言われるこの拳銃、わりと大型だが銃身とグリップのバランスが隆雄の手に実に良くなじむので、ベトナム戦争時代から愛用しているものだ。
 隆雄の脳裏にふとあの時のゲリラ戦の戦慄がよみがえっていた。
 玄関の壁に身を隠し、足で戸を蹴った。外には何もなかった。しかし隆雄のこめかみには44オートマグVが突きつけられていた。こうなるともうホールドアップするしかない。
「Very sweet!Long time a go.you don't training on the peace!!」(まだまだあまいな、平和ぼけして体がなまってるぞ隆雄!!)
 隆雄にその声は聞き覚えがあった。そう、スティーブだ。「wthat how aer you today.very bad smell water.I will gone contact to me.」(なんだ、スティーブ来るなら連絡してくれればいいじゃないか、水臭い」
「Ha ha ha.I will gone surprised you.」(はっ はっ は、隆雄をおどろかしたかったからさ)
「I'm surprised you ところで、英訳がたいへんだから日本語でしゃべろうぜ」
「まちがいない」
 スティーブは肩をすくめて苦笑した。 2人は、キッチンに入り夕食を一緒に取ることにした。
「コーヒーチャーハンとはなつかしいな。」
「ああ、よくあの時は食ったもんだったな。」
隆雄はニューヨークに住んでいたころをなつかしく思い出しながら、コーヒーチャーハンを噛みしめていた。突然、スティーブが切り出した。
「実は、ほんとうに驚かせることはこれなんだ。この地図に見覚えがないか?」
「何だそりゃ」
スティーブがポケットから出したのは古ぼけた地図だった。
「やっぱり知らないのか、隆雄がニューヨークに居たとき持っていた、くっさったような鞄があっただろ、それん中にこいつが入ってたんだ。」
「だから、それがどうした。」
スティーブはちょっともったいぶって少し間をおいて話し始めた。
「秘宝の隠し場所が書いてある地図だ。」
隆雄は思わずコーヒーチャーハンを吹き出した。
「おいおい、今時秘宝とは流行らないぜ。」
「それが、まんざらそうでもないみたいなんだぜ」
スティーブは自信たっぷりに言う。
「隆雄は、あの鞄の元の持ち主は誰だと言った。」
「隣のミネハゲタウンの永山じいさんとこから、とって来たやつだったかな。もう死んでるけど」
「そう、その永山玖巳右衛門が平家の落人の子孫で、宝の伝承者だったら…。」
「ま、まさか…平家の秘宝と言えば、伝説の魔剣”ムラサメブレード”…」
「そう…ムラサメブレードを手にした者は、その魔力によって世界をも自らの手に治めることが出来るという…」
「しかし、それを持った者の最後を見届けたという話は一切ない。結局は己の破滅を招くと伝えられている恐ろしい剣…」 
2人の間に十数秒沈黙が続いた。鳩時計が12時を告げた。
「けど、スティーブそんな剣を見つけたとして、いったい何に使うんだ。」
「筏の竹切りにいいかなあ〜と、思って…」 
 次の日、2人はさっそく宝探しへと出発した。今日もフェラーリのV8サウンドは心地よくガレージに響いている。伝説の秘宝探しと言っても2人にとっては久しぶりの再会であり、遠足気分でドライブといった雰囲気だった。
 一つ山を越えると、秘宝のありかはすぐそこだ。しかし、楽しい気分はここで終わりを告げなければならなかった。隆雄が車の異常に気がついたのは峠を越えてから、最初のコーナーにさしかかった時だったのだ。
「おい、スティーブ…」
「どうした、隆雄。冷や汗が出ているぞ。」
「シートベルトはしてるか…」
「ああ、あっち(アメリカ)では締めるのが常識だ。」
「なら安心だ…、ブレーキが全然効かない…」
「Ohhh! my goooooooooooood!!」
二つ目のヘアピンで80キロ近くも出てしまってはフェラーリでも谷底へ落ちるしか手がなかった。綺麗な放物線をえがいてイタリアンレッドの跳ね馬は、四万十の源流に散った…
隆雄とスティーブを乗せて…
 いや、2人は助かっていた。2人のピンチを何者かが救ってくれたのだ。ハイヒールを履いたカモシカの様な細い足がひだのついた紺のミニスカートからのび、ホワイトのラインが2本入った大きなエリのある丈が短い制服らしき服装に真紅のスカーフがなびいていた。東洋人ばなれした体型に黄色のワンレンの頭髪とくれば、いったい何者なのか見当もつかない。
「ケガはないですか?私が山に変わってお仕置きをしておきました。」
谷底の車内には見知らぬ人相の男が血を流してひっくり返っていた。どうやら、こいつがフェラーリのブレーキホースを切り、車内に潜り込んで何かをたくらんでいたらしい。
「私は、セーラーマウンテン。苦しいときはいつでも呼んで下さい。あっ、それから、ごめんなさい、フェラーリはお釈迦にしてしまったわ。替わりにこれを使って。」
とセーラーマウンテンと名乗る女は隆雄に車のキーを渡した。
「じゃ、がんばって秘宝をさがしてね。」
「き、君は…」
セーラーマウンテンはさっそうと用意していた自転車に飛び乗り、峠を下っていった。


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