安藤農園3部作原作

【第1部】  
 まだ、漆黒の闇が街を支配している頃、俺の仕事はすでに始まっている。今朝も留学先で知り合ったスティーブからの電話で目をさます。といっても、男から毎日モーニングコールをもらう様な趣味は俺にはない。俺が必要なのはデータだけだ。ニューヨークの最終株価が、俺の仕事には直接影響してくる。
 今日もたいした収穫はなさそうだ。隆雄は無造作にタバコに手が伸び火をつける。いつものように、けだるい朝だが、しかたなくベッドからはいだしシャワーを浴びようとした。
 昨日の女がまだいることに気が付く。まだ寝息をするをたてている。今日は電話のベルも聞こえないようだ。俺がシャワー室から帰るとようやく女も目を覚ましていた。昨日とは別人の様な、しおらしい仕草で、シーツ1枚だけを身体にひっかけてシャワー室に入っていった。11月だというのに霜のおりるゴンダニシティーは、朝だとかなり寒さが身にしみるのだ。
 女はシャワーがすむと、さっさと制服を着て、言葉を交わさないまま、俺のカブリオレのポルシェで、オフィスへ行ってしまう。今日の女はいつもこの調子だ。

 まあ、あまり気にもとめず、モニターのデータに目をやる。この分だと、明日のニューヨークはユズとベイナスがいけそうだ。東京もそれに続くことはまちがいない。もちろんパリもだ。 
 スティーブからのデータが転送を終了すると、いつものように朝食をとる。俺は自給自足がポリシーだから、朝飯は、ごはん、それも銘柄は農林28号だ。 
 今日は日頃の足に使っているフェラーリで外の仕事に向かうことにしようと決めた。あいつのV8サウンドが身体に心地よく響くのは、今の季節が一番いいと俺は自負している。

 ガレージの中はまだ薄暗いが、イタリアンレッドの跳馬は、早く俺に運転しろといわんばかりに輝いてみえる。
 こばほりとみつぐわをリアのトランクに収めて、コクピットに潜り込む。

イグニッションキーをひねるとなんのためらいもなくアイドル回転を保つところは、フェラーリといえども現代の自動車であることにかわりはない。 水温計の針の動きをみはからって、そろそろと、こいつをガレージから出す。3.4リッターのトルクは低速でも十分使いやすい。 
 イチノノバレーブリッジを過ぎると、アスファルト舗装の農道にでる。ここからがこいつの本当の楽しさが味わえるところだ。 
 甲高いフェラーリサウンドが明けきらぬゴンダニシティの谷間にこだましながら、今日も安藤隆雄の一日が始まる・・・。


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